Cosmo-kun2003-05-15

 それは突然やってきた。 ある金曜日の午後、ミーティングから戻ると、デスクの上に上司から「See me(会おう)」のメモが。 ああ、あの件かとピンときて、オフィスに行くと、ちょっと神妙な顔をした上司が、意外なことを口にしはじめた。 「君のアメリカ赴任は、君の奥さんの部署との調整が難航していて、実現は極めて難しくなった」。 なんてこった。 もう1年以上も待ち続けていたのに。 落胆を隠せないでいる私を前に、上司はさらに意外なことを告げた。

 「落ち込むのはまだ早い。 ヨーロッパはどうだ」。 「はあ、でもヨーロッパには、同じ場所に私と妻の部署はありませんが」。 「だから、君が部署も移るんだ」。 「おお、それはまた斬新な。 でも即答はできません。 ちょっと考えさせてください」。

 家に帰って、同じ情報を彼女の上司から聞いた妻と、早速検討を始める。 「おいおい、どないなってるねん。 アメリカで、ほとんど本決まりやったんちゃうんか」。 「わたしも、ぜんぜんわからへん。 でも、私に関しては、ヨーロッパのほうが、選択肢が多いのは確か」。 うーん、思案橋やなあ。 しかし、考えてみると、グローバルプロジェクトに携わっているとはいえ、最近はアメリカとのやり取りがほとんどだし、出張も、アメリカには、もうのべ2年分以上はしている。 それに比べて、ヨーロッパはイギリスに一度行った事があるだけである。

 日曜の朝、世界地図を広げる。 「ヨーロッパの研究所の中心はベルギーのブリュッセルやったよな」。 とそのとき、アニメ目当てに娘が起きてきた。 「パパ、なにしてるの」 「次の旅行の場所を探してるんや」 「ふーん」。 イギリス、フランス、ドイツ、と地図を眺め、ぼーっとしていると、アニメが終わり、エンディングの歌が流れてくる。 「倫敦(ロンドン)どんより、晴れたら巴里(パリ)・・・」。 未来を暗示するかのような歌詞に、思わず顔を上げる。 「そういえば、ブリュッセルからはロンドンとパリに1、2時間くらいで行けるみたいよ」と妻の声。 うーん、面白いかもしれない。 娘と一緒に、歌に合わせて踊りながら、これから始まるであろう人生の新しい1ページに思いをはせた。


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